無責任な言葉。

もう随分昔の話。

その人は悩んでいた。

悩みの内容は何処にでもある内容だった。でも誰かに聞いて欲しくて仲間に相談した。
「頑張れよ!」
「お前ならできるよ!もっと頑張れって!」

彼は、頷きながら酒を飲み「そうだよな・・・頑張ってみるよ」と笑った。
帰り道、居酒屋から駅までの道を皆でヨタヨタ歩きながら、彼は何度も「もっと頑張れ。もっとやらないと・・・」と繰り返していた。
ふと「もう頑張らなくていいんじゃない?」と言ってしまった。
・・・彼は急に泣き出した。
自分の限界まで頑張ってきた。それがあっていたのか間違っていたのかも解らない。ただ、自分が頑張ってきたと誰にも認められない。みんなは「もっと」と言う。だから間違っていたんだと思っていた。と。
人が悩んでいるとき、安易に「頑張れ」と言ってきた。
表向き「頑張る!」と言いながら、その壁から逃げようとしている人には、単なる励ましとして受け入れるだけだろう。
壁から逃げずに闘おうとしている人には大きな錘になる。
本人はもう頑張っている。

私たちは反省した。あまりに簡単に発言していた言葉に。

本心を言ってスッキリしたのか、彼は「また飲もうな!」と陽気に笑って帰って行った。

次にその場にいた皆で飲んだのは彼の通夜だった。